横道世之介

人生でいちばん大切なことは何だと思いますか?

突然、聞かれても答えられない質問です。具体的な日常を生きている人はそういうこと考えませんから。

ただ、誰かの人生を抽象化した小説や映画、あるいは箴言集には 素敵なセリフや文章があって、影響を受けた経験なら 誰にでもあるのかも。

私の場合、以前読んだ本「さよなら未来(若林恵著)」の中で紹介された、ナチスの圧政に逆らってユダヤ人の逃走を手助けした普通の市民たちのうちアドルフ・ライヒヴァインが処刑される前に11歳の娘に宛てた手紙の 以下の部分に感動して、自分の手帳に写したことがあります。

『いつでも人には親切にしなさい。助けたり与えたりする必要のある人たちにそうすることが、人生でいちばんたいせつなことです。だんだん自分が強くなり、楽しいこともどんどん増えてきて、いっぱい勉強するようになると、それだけ人びとを助けることができるようになるのです。これから頑張ってね、さようなら。お父さんより』ー「ヒトラーに抵抗した人々」より引用ー

こういう大切なことの順番がわかっていて、行動できる人はかっこいいですね。

「さよなら未来」では誰しもが金融屋や銀行屋のようにしか物事を評価できない世の中にあって、「人はなぜ学ばなければならないのか」という問いの答えを見つけるヒントとして紹介されていました。

小説「横道世之介」(吉田修一著)の主人公:横道世之介のことが、多くある小説や映画の主人公の中でいちばん好きで、いつも人に薦めています。連作の3作目「永遠と横道世之介」が2023年5月に出版されました。世之介は私と同じ1970年生まれです。長崎から上京して東京の大学生になる18歳から、40歳になる頃までの 世之介と様々な人々との出会いと思い出が、現在と過去を行き来しながら描かれます。私たちの世代には、時代の匂いが共有されて、親しみやすい名作です。

世之介は、「人生」なんていう言葉を冗談以外で口にしたことがありません。高校生のとき志望校を決める面談で「先生、あんまり勉強しなくても、俺にも受かりそうな東京の大学って、どこかないですか?」と聞く人物です。大学に入ると、親しい友人に「生産性ないねぇ、お前は」と言われて、「生産性?ないない、そんなもの」と答えます。読み始めてすぐに親近感がわき、小説の中に入って友達になっちゃいます。

世之介と友達になった気分で読みすすむうち、世之介に憧れている自分に気づきます。どうしてだろう?

世之介は自分そのままで飾らずに人と接することができます。独自の基準があって、身近で大切なことがわかっているように見えます。同じ年齢の時、私はもっと遠い情報を気にして背伸びしていたし、自分のこともまわりのこともよく見えてなかったように思います。なので世之介に少し感傷的にさせられるのです。

2作目の「おかえり横道世之介」で 、25歳になった世之介が、知り合ったシングルヤンママの息子に、先のアドルフ・ライヒヴァインが娘に伝えたかった「人生でいちばん大切なこと」と同じような話をする場面があります。「人生」なんていう言葉を冗談以外では口にしないキャラの世之介がする その大切な話が 、その子によく伝わるのです。人を諭すようなキャラではなく、大切な話なんていつもしない世之介が、寄り添うように、その子の気持ちをわかってやれるので、その子によく伝わるのです。

小説の中で友達になって世之介に聞いてみたい、「人生でいちばん大切なことって何だと思う?」

世之介は答えるかも。「人生でいちばん大切なこと?そんなこと 俺が知ってると思って聞いてる?」って。

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